1. はじめに
2016年パリモーターショーでメルセデスベンツが中長期戦略として掲げたCASE。Connected(コネクティッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェアリングとサービス)、Electric(電動化)を意味し、自動車業界の今後の方向性を示す言葉として使われています。
CASEへの潮流が生まれてから、自動車メーカー各社もCASEに基づいた戦略を様々に打ち出しています。この記事では、日本自動車メーカー主要6社を対象に、各社のCASEに関する取り組みを見ていきます。
※CASEについて知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
自動車の未来:CASEって何?
• トヨタ自動車株式会社(以下トヨタ)
• スズキ株式会社(以下スズキ)
• 本田技研工業株式会社(以下ホンダ)
• 日産自動車株式会社(以下日産)
• マツダ株式会社(以下マツダ)
• 株式会社SUBARU(以下スバル)
※メーカー記載順序は2021年国内新車販売台数に基づく
2. トヨタのCASEへの取り組み
2.1 概要
トヨタはモビリティに関わるあらゆるサービスを提供し多様なニーズに応えることのできる「モビリティカンパニー」として、「未来のモビリティ社会」の実現に取り組んでいます。そして、CASEへの取り組みも高度に、多方面に展開しています。
2.2 コネクティッド
2.2.1 コネクティッドサービス「T-Connect」「My TOYOTA+」
トヨタ自動車とトヨタコネクティッドが構築したオープンプラットフォームであるモビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)の基、トヨタのコネクティッドサービス「T-Connect」が提供されています。T-Connectで提供されるサービスは大きく三種類に分類され、緊急時のオペレーター機能などの「安心・安全」、リモートの車の操作などの「快適」、エージェント機能(ナビによる目的地や情報の検索)などの「緊急時のオペレーター機能などの「安心・安全」、リモートの車の操作などの「快適」、エージェント機能(ナビによる目的地や情報の検索)などの「便利」が存在します。
T-Connect契約者向けのスマートフォンアプリである「My TOYOTA+」は車に関する情報の確認や操作、車載ナビとの連携機能が利用可能です。
また、保険会社などのサービス提供企業がMSPFを利用して車両の情報と連携することにより、様々なサービスが展開されています。
2.2.2 コネクティッド・シティ「Woven City」
2020年1月に開催されたCES2020にて、トヨタは人々の暮らしを支えるあらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクティッド・シティ」のプロジェクト概要を発表しました。静岡県にある東富士工場の跡地を利用し、約70.8万平方メートルのエリアで街づくりをするというものです。
実証都市は「Woven City(ウーブン・シティ)」と命名され、ロボット・AI・自動運転・MaaS・パーソナルモビリティ・スマートホームといった先端技術を人々のリアルな生活環境の中に導入・検証出来る実験都市を新たに作り上げることを目標にしています。将来的にはトヨタの従業員を含む2000人以上が暮らし、社会課題の解決に向けた発明がタイムリーに生み出せる環境を目指しているとのことです。
2.3 自動運転
2.3.1 自動運転の考え方「Mobility Teammate Concept」、予防安全と自動運転に対するトヨタ独自のアプローチ「トヨタガーディアン」と「トヨタショーファー」
現在、トヨタは「Mobility Teammate Concept」という考え方に基づいて研究開発を進めています。このコンセプトは、人とクルマが同じ目的で、ある時は見守り、ある時は助け合う、気持ちが通った仲間(パートナー)のような関係を築くトヨタ独自の自動運転の考え方です。
トヨタは、「トヨタガーディアン」と「トヨタショーファー」の2種類のアプローチで、予防安全と自動運転システムを開発しています。
「ショーファー」は車両が自律走行できるようになることを目指し、究極的には、人間による監視や緊急時の操作がなくても運転できる状態を目標としています。このアプローチによって、年齢や心身の状態、その他の理由で現在運転できない人にも移動の自由を提供します。
「ガーディアン」は、「ショーファー」と同様の基盤技術を使用して開発されています。ドライバーの能力に取って代わるのではなく、拡充・強化することで、安全性を向上させるように設計されています。トヨタや他社によって開発された、レベル4およびレベル5の自動運転システムと組み合わせ、安全性と品質を向上させるショーファー型システムのバックアップとしても機能し、別のシステムに重ね合わせることで、システム障害の可能性を低くすることを目指しています。
2.3.2 自動運転モビリティサービス「Autono-MaaS」と自動運転EV「e-Palette」
「Autono-MaaS」は、「Autonomous Vehicle(自動運転車)」と「MaaS(モビリティサービス)」を融合させた、トヨタによる自動運転車を利用したモビリティサービスを示す造語です。 2018年、CES2018にて用いられたのが初出で、同時にトヨタはAutono-MaaS専用EV「e-Palette」を発表しました。e-Palette は2021年開催の東京五輪の選手村でも導入されたAutono-MaaSを体現するコンセプトカーで、電動化、コネクティッド化、自動運転化が図られています。
「e-Palette」以外でも、協業を進める米配車サービス大手のUberは、トヨタのミニバン「シエナ」をベースとした車両にガーディアンシステムとUberの自動運転システムを連携させた自動運転ライドシェア車両の開発が進められています。
2.4 シェアリング
2.4.1 カーシェアリングサービス「TOYOTA SHARE」
2019年10月、カーシェアリングサービス「TOYOTA SHARE」も全国展開を開始しました。トヨタは全国共通サービス制度を構築し、アプリ・デバイスを開発すると同時に、トヨタ販売店/トヨタレンタリース店がそれらを活用し事業を運営しています。
アプリ・デバイスの開発に関しては、専用アプリの開発に加え、スマホアプリ操作により車両の解錠施錠を可能にするSmart Key Box(SKB)やカーシェア運用に必要な車両情報(位置情報・走行距離)を取得する通信機TransLogⅡといったデバイスを開発しています。
2.4.2 新車サブスクリプションサービス「KINTO」
2019年7月に全国サービスが開始されたKINTOは、定額料金を支払うことで自動車の利用権を一定期間得られるサブスクリプションサービスです。2022年5月時点で、トヨタ車とレクサス車を選択できる「KINTO ONE」と、レクサス車限定の「KINTO for LEXUS」が提供されています。トヨタ車は3/5/7年間、レクサス車は3年間の契約期間となります。
KINTOの提供するサービス内容には、車両代金、KINTO所定のオプション(装備品)代金、登録諸費用、自動車税環境性能割、契約期間中の各種税金・保険(自動車税種別割、重量税、自賠責保険料、自動車保険(任意保険)料)、メンテナンス費用(点検、故障修理等)、車検費用が含まれます。
※本稿においては、自動車のサブスクリプションサービスにおける車の所有者はサービスの提供元であり、契約解消後は自動車の返却の選択が存在するという点から「Shared&Service」に分類しています。
2.4.3 マルチモーダルモビリティサービス「My Route」
2018年10月、マルチモーダルモビリティサービス「my route(マイルート)」が福岡県で開始されました。マルチモーダルモビリティサービスとは、複数の交通機関の連携を通じて、利用者のニーズに合わせた効率的な移動を提供するサービスで、my routeでは、専用アプリによってバス・電車・タクシー・サイクルシェア・レンタカーなどを組み合わせて移動ルートを検索し、必要に応じて予約・決済まで行うことができます。
北九州市、熊本県水俣市、神奈川県横浜市にエリアを拡大しており、今後も宮崎県宮崎市や日南市をはじめ順次全国展開を進めていく予定です。
※本稿においては、モビリティサービスを全体的に包括する概念としてMaaSを用い、またMaaSプラットフォームを経由したサービスを「Shared&Service」として取り扱っています。
2.4.4 モビリティの課題解決に取り組むモネ・テクノロジーズ
2018年にソフトバンクと設立した「MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)」が様々なサービスの創出や実装を目指し横の連携を進めています。
業界・業種の垣根を越えてモビリティイノベーションを実現する「MONETコンソーシアム」には2020年8月時点で、幅広い業種や研究機関など606社が加盟しています。
ヘルスケア大手のフィリップスジャパンが長野県伊那市と「医療×MaaS」の実証を行う例や、三菱地所がオンデマンド通勤シャトルの実証を行う例など具体的な取り組みも進められており、今後も多くの企業や自治体などの参加のもと、モビリティサービスの可能性をどんどん広げていくと考えられます。
2.5 電動化
2.5.1 トヨタのEVへの取り組み方針
2021年12月14日、トヨタは「バッテリーEV戦略に関する説明会」を開催し、2035年までの電気自動車(EV)に関する方針を発表しました。
内容としては、2030年までに世界のバッテリーEV販売台数を年間350万台、またレクサスブランドでは2035年までにEVを100%にすることを目指すというもので、そのために、2030年までにEV関連に4兆円を投資します。EVに最後まで積極とは言えない姿勢でしたが、今回の発表では、EVに大きく舵を切ったとも解釈できます。
ただし、同時にハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車についてはさらに4兆円の投資を行うと発表しています。TOYOTAのBEVは唯一の回答ではなく、水素自動車など他の新エネルギー車の普及にも力を入れようとする姿勢も感じ取れます。
3. スズキのCASEへの取り組み
3.1 概要
2019年、CASEの対応に際してTOYOTAと資本提携し、対応を推進しています。2021年2月24日に発表された中期経営計画においてはCASEへ対応が遅れていることを認識し、「小さく・少なく・軽く・短く・美しく」をモットーとし、主にコンパクトカー領域でのCASE対応の取り組みを加速しています。
3.2コネクティッド
3.2.1 コネクテッドセンターの立ち上げ
2019年1月、スズキは「コネクテッドセンター」を新設しました。「コネクティッド」の研究・運用にさらにフォーカスして取り組んでいくために設けられたのがコネクテッドセンターで、自動車から取得されるデータを収集・分析して、ユーザーがより快適・安全に移動できるクルマづくりに活かすことや、新たな事業創出や商品展開へと繋げていくことを目的としています。
3.2.2 コネクティッドサービス「スズキコネクト」を開始
2021年12月、スズキはコネクティッドサービス「スズキコネクト」を開始しました。スズキコネクトは、オペレーターサービスやスマートフォンのアプリによる「安心」の提供を標榜しています。具体的な機能としては、事故や緊急時に消防・警察への通報をサポートする「スズキ緊急通報(ヘルプネット)」、車両に発生したトラブル解消をオペレーターがサポートする「スズキトラブルサポート」、遠隔でのエアコンなどのリモート操作や駐車位置、運転履歴などが確認できる「スズキコネクトアプリ」で構成されています。
スズキコネクトアプリでは、駐車位置の確認や離れた場所からのエアコン操作ができるほか、ドアロックのし忘れやハザードランプの消し忘れをスマートフォンに通知し、車両に戻ることなく操作ができます。また、ハザードランプの点滅操作や駐車位置を示したURLも家族や友人に共有可能です。さらに、過去の運転時間、走行距離、平均燃費、急発進、急ブレーキの回数や場所、運転開始時や終了時の場所をスマートフォンに表示し、自分の運転を振り返ることが可能です。
3.2.3 「Commercial Japan Partnership」プロジェクトに参画
2021年7月、スズキとダイハツは、軽商用事業でCASE普及に向け、商用事業プロジェクト「Commercial Japan Partnership(CJP)」に参画すると発表しました。
CJPは、いすゞ自動車、日野自動車、トヨタ自動車が今年4月に立ち上げた商用事業プロジェクトで、いすゞ自動車と日野自動車が培ってきた商用事業基盤に、トヨタのCASE技術を組み合わせることで、CASEの社会実装・普及に向けたスピードを加速し、輸送業が抱える課題の解決やカーボンニュートラル社会の実現に貢献することを目指しています。
CJPにスズキ・ダイハツが加わることで、協業体制が軽自動車まで拡大し、物流の大動脈(トラック物流)から毛細血管(軽商用車)までつながるコネクティッド基盤構築による物流効率化を図ります。また、スズキ・ダイハツの良品廉価なものづくりの力とトヨタのCASE技術を生かして、廉価な先進安全技術や電動化の普及に向けた取り組みを一緒に進めていきます。
3.3 自動運転
3.3.1 浜松自動運転やらまいかプロジェクト
浜松市は、ソフトバンク株式会社
※1子会社の自動運転開発企業BOLDLY株式会社
※2やスズキ、遠州鉄道株式会社
※3と自動運転に関する連携協定を締結しています。「浜松自動運転やらまいかプロジェクト」と題したこの事業では、自動運転技術を活用したスマートモビリティサービスの事業化に取り組み、交通課題の解決や地域や産業の発展に貢献していくことを目指しています。
浜松市の交通課題を解決し、持続可能な公共交通のあり方を探るため、将来の自動運転の実用化を見据えた車両の予約・運行管理システムの検証を実施しています。
出典:浜松自動運転やらまいかプロジェクト第2回実証実験結果報告書
※1 ソフトバンク株式会社:https://www.softbank.jp/corp/aboutus/profile/
※2 BOLDLY株式会社:https://www.softbank.jp/drive/company/
※3 遠州鉄道株式会社:https://www.entetsu.co.jp/company/profile/profile.html
3.4 シェアリング
3.4.1 中古車サブスクリプションサービス「スズキ定額マイカー」
2022年1月、月額定額で利用できる中古車のサブスクリプションサービス「スズキ定額マイカー」を開始しました。
スズキ定額マイカーは、車をもっと気軽に利用してもらいたいという思いから生まれた、税金や自動車保険料を含めて月額2万9000円からスズキの中古車を利用できるサブスクリプションサービスです。
スズキは、予防安全技術「スズキ セーフティ サポート」を搭載した高年式の中古車を取り揃え、契約期間を6か月間とすることで、ユーザーにシンプルで気軽に利用できるようにしています。また、申し込みから契約、登録手続きまでを専用サイト、または郵便を用いた非対面形式で完結することで、時代の変化に対応したサービスとなっています。
3.4.2 中古車カーシェア「Patto(パット)」
スズキと丸紅株式会社
※4、株式会社スマートバリュー
※5の3社は、カーシェアリングサービス「Patto(パット)」の実証実験を2月22日より1年間、大阪府豊中市周辺エリアで実施しています。
Patto(パット)」は、「普段使いができる気軽なクルマ」をコンセプトとした、地域に寄り添ったカーシェアリングサービスです。急な雨や荷物の多いときなど、「今日クルマを利用したい。近くにクルマがあったらいいのにな」といったユーザーの声に応えるカーシェアとして、スズキアリーナ豊中や提携駐車場など大阪府豊中市周辺エリアにて展開されています。
※4 丸紅株式会社:https://www.marubeni.com/jp/
※5 株式会社スマートバリュー:https://www.smartvalue.ad.jp/
3.5 電動化
3.5.1 スズキのEVへの取り組み方針
2021年2月に発表した新中期経営計画において、今後5年間の研究開発に1兆円を投資し、2025年までに電動化技術を集中的に開発する計画で、2025年までに国内で軽自動車サイズの電気自動車を投入する予定です。
EV開発では、トヨタとの共同開発を活用し、インド市場に、2025年までにストロングハイブイリッド車とEVを投入、国内ではCJPプロジェクトで商用軽EVを開発、乗用軽自動車にも展開し、実質負担額を100万台に抑えた軽自動車EVを2025年までに投入する予定です。