主要クラウドサービスの比較

ここ10年ほどで、AWSをはじめとするクラウドサービスは一気に普及しました。
サーバを持つ時代から借りる時代になり、今では企業が基幹システムやファイルサーバをクラウド上に持つことが一般的になっています。
ここでは2020年時点でクラウドサービスのシェア上位3つを比較し、それぞれにどんな特徴があるのかを述べていきます。
クラウドサービス選定の一助になれば幸いです。

ここでは、以下3つのサービスを比較していきます。

・Amazon Web Service(AWS)
・Microsoft Azure
・Google Cloud Pratform(GCP)

提供サービスの比較

クラウドサービスについてはAWSが先行しており、また新規サービス開発も非常に積極的なため、サービスのカバー範囲でみるとAWSが突出しています。逆に後発のGCPがやや少ない印象です。

例えば、ブロックチェーンに関するネットワークやアプリケーションの作成は、AWSとAzureには存在しますがGCPには存在しません。DBについても、Oracleが扱えるのはAWSのみ、MariaDBやMongoDBがGCPでは対応していない、などサービスごとに提供範囲に差があります。
(GCPは、Cloud Firestoreという別のNoSQLサービスがある)

ただ仮想マシン、データベース、Webアプリケーションの実行環境、ストレージなどの一般的なサービスは、いずれのプラットフォームでも提供されています。
各プラットフォームが提供している一般的なサービス、および利用可能なデータベースを一覧化しました。
主要サービス一覧
サービス名 AWS Azure GCP
DWH Amazon Redshift Azure Synapse Analytics Google BigQuery
仮想マシン Amazon EC2 Azure Virtual Machines Compute Engine
オブジェクトストレージ Amazon S3 Azure Blob Cloud Storage
ブロックストレージ Amazon EBS Managed Disk Persistent Disk
Webアプリケーションの実行環境 Amazon Elastic Beanstalk Azure App Service App Engine
CI/CD環境 AWS CodeStar Azure DevOps -
仮想デスクトップ Amazon WorkSpaces Windows Virtual Desktop -
仮想ネットワーク Amazon Virtual Private Cloud Azure Virtual Network Virtual Private Cloud
機械学習環境 Amazon SageMaker Azure Machine Learning AI Platform
対応データベース一覧
データベース名 AWS Azure GCP
MySQL Amazon RDS for MySQL/Amazon Aurora Azure Database for MySQL Cloud SQL for MySQL
PostgreSQL Amazon RDS for PostgreSQL/Amazon Aurora Azure Database for PostgreSQL Cloud SQL for PostgreSQL
Oracle Amazon RDS for Oracle - -
SQL Server Amazon RDS for SQL Server SQL Database Cloud SQL for SQL Server
MariaDB Amazon RDS for MariaDB Azure Database for MariaDB -
NoSQL Amazon DynamoDB Azure Cosmos DB Cloud Datastore/Cloud Bigtable
Redis Amazon ElastiCache for Redis Azure Cache for Redis Memorystore for Redis
MongoDB Amazon DocumentDB (with MongoDB compatibility) Azure Cosmos DB(MongoDB API) -

コストの比較

クラウドサービスは完全従量課金であり、単純に価格が安い、高いという比較はしづらいです。
課金の単位やディスカウントの基準がサービスごとに異なるので、そちらの違いを記載します。
課金・支払の比較表
分類 AWS Azure GCP
課金単位(仮想マシン) Linuxのみ秒単位、それ以外は時間単位 分単位 秒単位
課金単位(それ以外) 時間単位のものが中心 App serviceのみ分単位、それ以外は時間単位 秒単位のものが中心
支払方法 クレジットカード/請求書払い(高額の場合のみ) クレジットカード/請求書払い クレジットカード
支払通貨 米ドル・日本円 選択可 米ドル・日本円 選択可 米ドルのみ
ディスカウント リザーブドインスタンス割引 12カ月の前払い割引、エンタープライズ向け割引 自動適用の長期利用割引、プリエンプティブルVM割引
無料使用 初回 12ヶ月一部機能無料 + いつでも一部機能無料 Azure: 初回 1ヶ月 20,500円クレジット + 12ヶ月一部機能無料 + いつでも一部機能無料 GCP: 初回 12ヶ月 300ドル クレジット + いつでも一部機能無料
仮想マシンはこれまで時間単位だったものが、サービス間の競争により分単位→秒単位とより細かい単位に変わってきています。単位が細かいほどユーザーにとっては得なので、この変化は歓迎すべきものです。

ディスカウントについては各社仕組みが異なりますが、基本的な考え方としては「長期利用を事前申請することによる割引」です。
GCPは仕組みがシンプルで、長期利用すると自動で割引が適用されます。
無料利用枠は後発のほうが枠が広く取られていますので、AWS<Azure<GCP となります。

セキュリティの比較

各クラウドサービスの、セキュリティ面の優れたところ、良くないところをまとめました。
ここでのセキュリティとは、ユーザー側が設定できるデータの暗号化やユーザー権限などのことを指します。
AWS
○歴史が長く、設定用のツールが充実している。
○セキュアな設定がデフォルトになっており堅牢性が高い。
×サービスごとに個別のセキュリティ設定を行う必要があるものが多く、管理が難しい。
Azure
○Azure Active Directoryでユーザーの一元管理が可能。
×安全性の低い設定がデフォルトになっている。
GCP
○機能が多く、高度に集中管理されている。
×歴史が浅く、設定用のツールが少ない。

導入難易度の比較

クラウドサービスの導入に際し、技術情報やトラブルシューティングの情報を得られるかどうかが重要になってきます。
導入実績が多ければ多いほど情報が蓄積されており、導入しやすくなります。また、パートナー企業と組んで推進する場合には企業の数、規模も重要です。
AWS
AWSは導入実績が圧倒的に多く、またパートナー企業の数も多いです。
AWSの日本国内パートナー企業は2018年末時点で750社あります。
Azure
Azureは導入実績はAWSより少なくGCPより多い、中間に位置します。
マイクロソフトのパートナー企業は数多いですが、Azureの大規模導入実績があるパートナー企業は、日本国内で40社程度です。
GCP
GCPは最後発のため、導入実績が最も少なく、パートナー企業も20社程度しかありません。
サービス自体やドキュメントが日本語化されていないものも多く、導入難易度という観点ではGCPが最も高いことになります。

まとめ - クラウドサービスの選定のポイント

クラウドサービスは圧倒的に先行するAWSを、Azure、GCP、Alibaba等が追うという状況が続いています。
AWSのシェアは一時期よりは下がったものの、それでもトップの座は揺らいでいません。そのため、単純に機能や導入のしやすさだけを比較すると、シェアトップでサービスが充実したAWSが優れているという結論になります。

ですが、クラウドサービスをどのように利用するかによって選択の仕方は変わってきます。

例えば社内のインフラとしてクラウドサービスを選択する場合、コミュニケーションツールをG SuiteにするのであればGCPを選ぶのが良いでしょうし、Office365やMicrosoft Teamsを利用するのであればAzureが最適だと言えます。既存のアプリやDBをクラウドに移行する際も、既存の環境によって適したクラウドサービスが異なることになります。

クラウドサービスはコストや導入実績だけで見るのではなく、「クラウドサービスの導入によって何を得たいのか」を明確にした上で、その目的に合致したサービスを選ぶことが重要となります。

執筆者紹介
T.I  エンタープライズテクノロジー事業部

SIerおよびコンサルティングファーム(Big4)にて14年の経験を経て現職。
Microsoftのプラットフォームによる開発経験が豊富。
プロジェクト実績がある業界は主に製造業、不動産、金融。
大規模システム導入プロジェクトにおけるプロジェクトリーダーの経験があり、システム導入支援全般を得意とする。